江戸時代の貨幣制度
 〜短期集中高座〜


貨幣博物館銀座線・三越前にある貨幣博物館へ行って参りました。
以前に、お客様から教えて頂き、ずっと気に掛かっていた場所でして・・・。
ちょうど銀座を通りかかったので、寄ってみたんです。

落語の中に、よく小判や銭が出てきますが、これがイマイチよく分からん。
何より、手前ェで演っていて、疑問に思いながら
いい加減な仕草をするほど、不安なことはない。
まず大きさ。量。そして重さ。
また、貨幣価値、小判や銀、小銭の交換比率。
せっかくなので、ここでしっかり再現してみませう。

あちらのHPに、とっても分かりやすい一覧が載っておりました。
え〜、画像の転載って本来はマズいのでしょうが、どうかお目こぼしを願ってー。


三貨制度


時代劇でもお馴染みの小判
貨幣単位は「両」です。
でも、小判ってのは価値が大き過ぎて、庶民社会ではほとんど流通していなかったらしい。
落語の中でも、目の飛び出るような大金として登場しますねぇ。

その下の貨幣単位が「分(ぶ)」
ここでややっこしいのが、交換比率。4進法なんです。
つまり、4分で1両。
噺によく登場する一分金ってのは、1両の四分の一。通称が額(がく)。
『大工調べ』で、「額が6枚ェ、1両2分だ」ってぇのは、これのことです。

そのまた下の単位が「朱(しゅ)」
4朱で1分。同じく4進法。

お次は、八っつあん、熊さんがよく使ってる。単位は「文(もん)」
交換比率は・・・、変動相場制のようです。面倒くさぁ〜い!
分かりやすいように、1000文=1分って事にしときましょう。
『時そば』で、「二八そばはお代が16文と相場が決まっておりまして・・・」。
だから、1分ってのも、かなりの大金だったんですねぇ。

で、あんまり登場しないのが銀貨
どうやら、関東では金貨建て(金○両○分)、関西では銀貨建て(銀○貫○匁)
慣行や、銀の産地の関係で、こうなったらしいです。
「分」と「朱」は金と同じように考えて頂いて。
聞きなれない貨幣単位、「匁(もんめ)」
図のように、5匁×12=1両。
なぜ1匁じゃないの?!5匁銀貨しか存在しなかったということか。
やはり『大工調べ』で、「大工の手間賃は1日、銀15匁」。
これを換算すると、金1分になりますねぇ。
与太郎さんは20日分の手間賃をもらったので、銀300匁。金にして5両。
かなりの腕前だったようです。
では、なぜ銀で手間賃をもらったのか?
それは・・・、知りません(笑)。稽古して頂いた市馬師匠も「これがよく分からねぇんだ」。


以上が交換比率。江戸市中でも両替商がこれを行っておりましたそうで。
さてお次は大きさ。

単3乾電池小判50両包み2朱銀1文銭5円玉

ご覧の通り。またまた転載。申し訳無いッ!
小判50両、1包み。通称、ひし餅。
ちょうど、手のひらで掴んでポンと出すような感じかな。
『火焔太鼓』で「いいかァ、50両ずつ出すからビックリしてシャックリ止めて馬鹿ンなるな!」
おカミさんの前に積み上げていくのがこの包み。

その下が2朱銀。切手のような大きさ、形は1分金なんかと似たり寄ったりじゃないかな。
で、お隣りの穴開き銭は1文銭。
銭形平次はこんなモン、投げてたんですねぇ。今だったら5円玉か10円玉ぐらい?

それ以外には、直径2cmぐらいの円形や円盤型をした「豆板銀」ってのもあります。
「宿屋の富」で主人公が出す、なけ無しの銭、「小粒」ってのは、これのことじゃないか、と。
「この富札は1分で・・・」ってところから、1分金or銀かもしれませんが、
「これはうちじゃァ、子供がおはじきにして遊んでる」から、
関西方面から来た泊り客ということにしときましょう。

他に、「銭緡(ぜにさし)」もありました。
庶民生活で一般的に流通している「銭」は貨幣価値が低いため、
真ん中の穴に紐を通して、両端を結んで、ひとまとめにした物がこれです。
よくあるのが、100文ざし。15cmぐらいかな。
100文ッつっても、実際にはまとめる手間賃を差し引いて96枚ぐらいしかないそうですが。
この100文ずつ、5つまとめて紺の紐で括ったものが、「青差し5貫文」
「孝行糖」でお奉行様が親孝行のご褒美に与太郎に下げ遣わす銭です。
ってことは、500文か。先述の計算で行くと、1分の半分にしかならない。
いや、これは単純に交換比率に当てはめるのではなく、
“お奉行様から賜わったご褒美”という認識がより近いのか。
今で云う、プレミア?!


小理屈を並べてしまいました。
お仕舞いに、江戸時代の貨幣価値について、一考察。

「1両」って、現在の金額にすると、どれくらい?
よく聞かれます。また、自分でも疑問です。
貨幣博物館でも、微に入り細に渡って展示、解説してくれてます。
まず、江戸時代といっても270年もあり、その中で、インフレ・デフレが起きています。
さらに、現在のどんな物に変換するかによってもその価値がだいぶ違ってきます。

よく、教科書なんぞで見かけるのが、お米に換算した場合。
江戸時代の地価相場(?!)は「石高(こくだか)」で計算されます。(正しくは米の収益率かな?)
まず、1日にご飯3合食べるとして、1年で約150kg。これが「1石(こく)」
1両=1石
ね、小判1枚あれば、1年食っていけるんだ。そんな大金、生涯見たこと無くったっておかしくない。

では、江戸っ子の食いモン、蕎麦では・・・
先述通りの計算で、二八そば16文で250杯。
う〜ん、多いんだか少ないんだかよく分からん。

「酒無くて、何の己が桜かな」。皆さま大好きなお酒では。
2斗4升。野暮を承知で計算をすると42リットル。
オイラはこれだけあれば・・・、半年はもつ?!

芝居気違いなあなたにはー。
上方・大阪の芝居小屋で桟敷席が銀21匁なんという文献があり候。
このS席3枚で1両。
えェ、庶民は素直に「寄席通い」が吉。

ぎゃんぶらぁ派は。
富くじ、そう、宝くじですよ。
この富札が1枚銀1.5匁(だから、100文くらい)〜2分。
えーと、今計算してます。・・・1両出して買えるのが、40枚から2枚って、かなり高い!
でも突き留め、1等賞には1000両もらえちゃうン!
人生は博打、そんな座右の銘で一発、賭けてみましょうか。

長々と小駒の戯言にお付き合い頂き、誠にありがとうございます。
これで少しは長屋の銭勘定が身近になりましたか?
でも、江戸っ子は宵越しの銭は持たねェんだぃ!頓着しちゃァいけねぇや。
大して持ってなくったって、八っつあん、熊さんも元気に暮らしております。
え?持たないんじゃなくて、持てなかった?!
いいの!落語でも聞いて楽しく生きられればね。


(尚、金額を分かり易くする為、通常、漢数字で表現する言葉も、
 アラビア数字を用いましたこと、どうかご了承下さい。)


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