着道楽を目指して




噺家と着物のお話

着物ってステキですよねぇ!
商売柄、着物に接する機会が多いんです。
そこでこのページでは、着物のあれこれについて進めて行きたいと思います。
着物の楽しさを知ってもらえれば嬉しいです。

「噺家」「落語家」と聞いて何をイメージしますか?
扇子をパチパチやってる、笑点に出てくるオジサン達、貧乏(余計なお世話じゃ!)、面白い人etc...
やっぱり着物ってのも出てくるはずです。

着物を着ているだけで、「落語家みたいだね」って言われるくらいそのイメージは強いもんで。
じゃァ、噺家にとって、着物って何なんだ?
――いきなり哲学的ですねぇ。
ある人いわく、「衣装」。
またある人は、「芸人の作業着」。
はたまた、「江戸時代の普段の恰好だ」、と人それぞれ考え方は違うんです。

それを小駒的に分析してみます。
おそらく間違ったことも云ってます。 (^_^;)ゞ
だって、今この平成の日本で、着物を着る機会って、早々ありますか?特に男性。
オイラも大学の落研に入って、初めて着物を着たぐらいです。
当然、着物に対する知識なんて、これっぽっちもありません。
でも噺家になって楽屋入りをして、前座として毎日毎日3、4年も着続けてりゃぁ、
ちったァ分かったつもりにもなるもんで。
そこのところをご了承の上で。ご指摘は掲示板やメールで教えて下さいマセ。


まず落語家って、東京と大阪の芸人に分類できます。
一般的に云って、東京は地味、大阪は派手。(着物が、ですよ)
大阪の噺家は”衣装”として捉える方が多いのかな。
原色のような、見た目も鮮やかな色使いと、ポンポンみたいなでっかい羽織ひも。
まず、着物でお客さんを“つかむ”ワケですね。
それに対して、東京の噺家は地味な着物が多いようです。
縞(しま)物だったり、無地だったり。
そこには”粋”な着こなしってのが感じられます。
この地域性が、噺家の着物にも反映しているようですね。

桂文治師匠
落語芸術協会の会長ですが、この師匠、楽屋で派手な着物を着た噺家を見つけると小言を云います。
「何だい、その恰好は。チンドン屋みたいなナリをしやがって。
 江戸ッ子なら江戸ッ子らしく、黒紋付を着たらどうだい?」
云われてる芸人は実は九州出身だったりするんですが。
・・・ともかく、文治師匠、確かに黒紋付しか着ません。
人間国宝の小さん師匠も黒紋付が多いかなぁ。
黒紋付ってのは第一級の正装なんです。
天皇陛下主催の晩餐会に招かれてもこの恰好で大丈夫。(^_^)v
ドレスコードのある高級フランス料理店でも自信を持って通れます。きっと。おそらく。

人前に出て芸を見せる。その時に正装をしているってのは見た目にも引き締まります。
ちゃんとした芸を見せてくれそうです。
それが黒紋付の効果。
――でもね、そこは噺家。その下に真っ赤な長じゅばんを着ていたりするんですよ。
見えないところにお洒落をする。これも”江戸ッ子の粋”ってヤツですかね。


文治師匠で思い出しましたが、落語家だからって、いつも着物でいるわけじゃありません。
普段は、ごく普通に洋服を着てます。
仕事で田舎に行くと、「あれ?着物は着てないんですかぁ?」って聞かれることもあるし。
今、噺家で常に着物を着ているのは・・・文治師匠と・・・ん〜、あんまりいないなぁ。
現代の日常生活で、着物って行動しにくいんですわ。慣れてないせいもあるけど。
小さくたたんで、風呂敷に包んで、カバンに入れたりリュックに背負ったりして楽屋入りをしています。

そうそう、洋服の仕立て方は立体的に出来上がりますが、着物は平面的に仕立てるものらしいんです。
なので、折り目、折り目でたたんでいくと、ものすごく小さくなります。
また、この着物のたたみ方ってのも人それぞれで前座の時に覚えるもので。
三遊亭のたたみ方、古今亭のたたみ方、あの師匠はこのサイズで、この師匠は3つ折で、
――って、もう忘れちゃったけど、とにかくたたみ方には気を使いました。
シワを作っちゃいけないよ、手のひらで撫でちゃいけないぞって、入ってきた見習い前座に教えるんです。
分かります?これ。
着物って、高いんです。ものすごく。下世話な話題で申し訳ないっすが。
しかも絹物ですから、洗えない、と考えて頂いて結構です。(この話題はまた別の項で)
だから、洗って干してアイロンをかけて――というワケにはいかないんです。そう簡単には。
人間の手のひらは脂が付いてます。
私は乾燥肌なのよ!ッて方も居りますが。
その手のひらで着物をベタベタと撫で回すと汚れる!ッてんで嫌われます。
楽屋に伝わっている話で、昭和の名人・三遊亭圓生師匠が着物をたたもうとした前座さんの手を掴んで、
「おまぃさんは脂ッ手だからたたまなくてようがす」ってんで、断られた、なんてエピソードも残っているくらいで。
とにかく、着物の扱いにはビックリするほどの注意を払います。まぁ、そうでもない人もいますがね。


また、男物の着物を探すのが大変。
街中の着物屋、呉服商ってところに飾ってあるのはまず女物。
男物も、申し訳程度に置いてあるけど、そのほとんどが紺やこげ茶の無地。しかも紬とか。
いくら東京の噺家が地味な着物を好むったって、これじゃ地味すぎる。
男物の着物ってのは、ご隠居さんしか着ないんでしょうか。
そこで、噺家は血眼になって、粋な着物を探し回ります。
女物の縞物を男仕立てにしたり、気に入ったのが無けりゃ別誂えにしたり。
そこは客前で芸を見せる商売、いい物を着たいもんです。


そんな着物の話題を書き連ねていきます。
こんなことが聞いてみたい!ってのがありましたら、どうぞご遠慮なく掲示板にでも書いといて下さいな。


今後の予定

「着方、着こなし術」、「え?洗えるの?」、「色合わせはムツカしい」、「衣装と普段着」
「羽裏って何?」、「五十の着物に百の帯」、「紋、モン、もん」、「男の色気、女の色気」
「季節感と日本人」、「お手入れもラクじゃない」などを企画してます。どうぞお楽しみに!



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